NHKで放送されたMY FOOLISH HEARTツアーのドキュメンタリ番組で、「FINAL COUNTDOWN」の最後で吉井和哉が観客に感謝の言葉をなげかけるおなじみの光景が流された。THANK YOU 西!THANK YOU 南西!THANK YOU 南!THANK YOU 南東!THANK YOU 東!そのあとに続く言葉が、最初うまく聞き取れず、番組終了後巻き戻してもう一度聞いた。その言葉を聞いて私は最初思わず笑ったが、同時に吉井和哉の業というようなものに思いをはせたりもしたのだった。
先日、Shine and EternityのCDに同封されていた案内で、CD購入者が応募できるツアーの優先予約があって、いろいろと事情があってそれに申し込んでみたわけですが、当選を知らせるメールには添え書きがあった。曰く「本公演は好評につき先行予約で多数のお申し込みを頂いております。よって、ステージサイド席を解放致します。今回のご案内ではステージサイド席(ステージのややななめ後ろからの角度となる場合がございます。)でのご用意となります。」
武道館でステージの斜め後ろから、ということは北東および北西のブロックを開放するということなんだろうと思う。
吉井和哉のことを野心家である、と言ってしまうことにはいささかの抵抗があるけれども、少なくとも彼には圧倒的な飢餓感というようなものが常にあって、どんなときでももっとだ、もっと、と自分を駆り立てずにはおかない、というような面が少なからずある。もっとだ、もっと。そのあとに続く言葉がなんにせよ、それはもう吉井和哉の業のようなものなのだろう。ホールでやるライブも、アリーナでやるライブも好きだけれど、アリーナで出来ないアーティストにはなりたくない、と彼はかつて語ったが、その言葉のとおり、今回のツアーはアリーナクラスの会場が7箇所並ぶことになった。
東京はともかく、地方ではSOLD OUTにならない会場もあるかもしれない。だけれど、吉井和哉にとっては会場が埋まらないかもしれないということよりも、その会場を埋めるだけのアーティストでありたい、という意思のほうが大事なのかもしれないと思う。以前椿屋四重奏の中田裕二との対談で、夢なんて、目の前のコップをつかむかどうかじゃないか、と吉井和哉は彼を敬愛するアーティストに発破をかけていたが、「悩んでないと生きられない」と言いながら、誰しもが簡単には出来ない「目の前のコップをつかむ」ことを彼がずっと続けてきたことを思うと、彼を野心家と評する言葉も、強ち外れてはいないのだろう。
39108のDVDに収められたインタビューで「一番混沌としていた」と述懐するMY FOOLISH HEARTツアーのその時でさえ、彼のもっとだ、もっと、という意思は働き続けていたわけだけども、今回、その彼の言葉が半分実現することを思うと、彼のその「コップをつかむ」パワーに脱帽しないではいられない。
THANK YOU 西!THANK YOU 南西!THANK YOU 南!THANK YOU 南東!THANK YOU 東!
後ろも入れるからな今度は!
彼の言葉どおり、武道館が全方位開放される日はいつになるのだろう。それは遠くないいつかなのかもしれないし、そうでないかもしれないが、ただ、それが実現しないだろうと思う人間はもう誰もいないだろうということだけは、確かなような気がする。