パール

22ndシングル。 パール 

プロデューサーシリーズが「バラ色」から始まって、なんとなくバンドの周りに重苦しい空気が漂っていたころにこのシングルがリリースされ、これはきわめて個人的な感情だろうとは思うがはじめて聞いたとき「ああ、まだ大丈夫だ」と根拠もなく思ったことを思い出す。 実際には大丈夫じゃなくて、行き先を決めたからこその突き抜け感だったわけだが(書いてて痛い、痛いよ)それでもこの曲の、重苦しい空気を吹き飛ばすかのような疾走感にずいぶん救われる思いがしたものだ。

DVDはspring tourとメカラ8に収録。spring tourは日大ゲリラライブのときのもので、まだデモ状態だったのか、歌詞がリリースされたものとは微妙に違う。2つのDVDのうち、ゲリラライブの方がそれは環境もあって音は良くないのだが、演奏はこちらのほうがクオリティが高い。

最後期にリリースされたシングルだから、もちろんそれほどライブでたくさん聴いた、というわけではないが、パールといえばやはり思い出すのは、2000年の第1回ロックインジャパンフェスでのアクトである。 台風が接近するなか開催された2日目、開始当初に少し雨が降ったもののそれほどの大降りにはならず、中盤奥田民生のアクトが始まるころには少し晴れ間さえのぞいていたのだった。その次のスピッツが終了するまで、実際天気は持ちこたえた。しかし、スピッツ終了と同時に面白いほど「一転にわかに掻き曇り」、イエローモンキーが登場するころにはすっかり本降りとなってしまった。

打ちつける雨と風の中で、これまた重苦しい「8」の曲が続く。途中で確か吉井は「まるで今の自分の状態のようだ」というようなことを言った。バラ色の前には「ひどい仕打ちだぜ!」とも。だが、目を離せない何かがあった。この場を共有している、という圧倒的な一体感と、何かと戦っているひとを目の前にしている臨場感が、雨に濡れながら演奏を聴いていた多くの人を捕らえていたと思う。 最後のナンバーになったパールの、後半の間奏部分で、面白いことが起こった。飛び跳ねながら、揺れながら曲にノっていた観客の拳が、次々と高く掲げられていく。それは普段のイエローモンキーのライブでは見られない光景だった。やがてグラスステージを埋め尽くしたその人の拳の波を、私は今でも忘れることができない。

宇宙で最も暗い夜明け前 パールをこぼしにハイウェイに飛び乗る