吉井和哉の作詞における人称代名詞大研究・その2

前置きはこちら。 今回はアルバム別に考察してみましょう、誰にも頼まれていませんが! とりあえずTRIAD時代のアルバム5枚から。

1 Night snails and plastic boogie

全11曲のうち、一人称二人称ともに登場しない曲が2曲、Song for night snailsとSubjective late show。この1stアルバムで特徴的なのは人称が混在する曲が多いという点です。基本的に人称の統一というのは大前提とされるべきところですが、そこが吉井和哉若かりし頃の才能の暴走なのか、「僕」と「私」が同一曲のなかにあったり、さっき「あなた」と言っていたものが「あんた」になったりとそういったお約束とは無縁です、といわんばかりの自由奔放さが素晴らしい。一人称は「僕」が圧倒的で7曲、二人称も「君」が圧倒的で7曲を数えます。このアルバムの中には人称代名詞がそれぞれ1回しか出てこない、という曲が多数を占めるのですが、その中でもっとも「君」という二人称を連呼している曲こそ、名曲This is for youに他なりません。

2 EXPERIENCE MOVIE

全13曲、うち3曲に一人称二人称ともに代名詞なし。アルバム全体の多様性が人称代名詞にも反映されているかのごとくカラフルです。「僕」の一人称が6曲ありますが、「あたし」が2曲、「私」が1曲存在し、その「あたし」「私」で歌われている歌こそ4000粒の恋の唄とシルクスカーフに帽子のマダムという、超弩級のトラウマ曲であるところがまさにこのアルバムを象徴している気がします。また、今回初めて気がついたのですが、drastic holidayという曲は一人称が登場しないにも関わらず二人称が「君」「貴方」の2パターンあるという不思議な曲なのですね。歌詞をよく見てみると、これは前半と後半で歌い手の人格が変わっているのかも?と思わせます。二人称は「君」が5曲、「あなた」も、シルクの「あんた」も含めれば5曲でまったくのタイ。イエローモンキーのアルバムの中でこのEXPERIENCE MOVIEをもっとも愛する、という人は少なからず存在しますが、そういったところに魅力の秘密があるのかもしれません。

3 jaguar hard pain

全12曲、人称代名詞が登場しないのはA HENな飴玉のみ。FINE FINE FINEとROCK STARにおいて一人称が登場しないのを除けば他の9曲全ての一人称が「僕」。これはこのアルバムのコンセプトを考えれば当然のことかもしれません。二人称はSECOND CRYの「お前」、赤裸々GO!GO!GO!の「あなた」を除くとこちらも残り全てが「君」。そして、全160曲のうちたった1曲、「僕」「あたし」「君」「あなた」の4種の代名詞が同時に存在するのがMERRY X'MAS。これは言うまでもなく、ジャガーとマリーというふたつの人格が歌の中に存在するからですが、この歌のもつシアトリカルな壮大さを象徴しているとも言えます。

4 smile

2ndアルバムのEXPERIENCE MOVIEとは対照的かもしれません。全13曲、人称代名詞が登場しない曲はなし。そして全13曲のうち実に12曲の二人称が「君」、オープニングであるsmileの冒頭のナレーションは、歌詞カードでは日本語ですが歌の中ではロシア語です。この冒頭のナレーション部分にある「あなた」という言葉を除くと、実にこのsmileには「僕」「君」以外の一人称、二人称の代名詞が一切登場してこないのです。そして初期の頃と比較しても、圧倒的に1対1の関係性においての「僕」「君」の言葉の使い方になっているのが興味深いところ。

5 FOUR SEASONS

全11曲、こちらも一人称も二人称も登場しない曲はなく、またこのアルバムについては全11曲全ての二人称が「君」でありsmileの流れを汲んでいるわけですが、一人称の方で変化が出てきます。ここまで一切登場しなかった(MORALITY SLAVEのナレーションは除きます)一人称「俺」の登場です。使われているのはTACTICSとSWEET&SWEET。また、「君」という二人称を使ってはいますが明らかに父親を指しているFATHERなどもあり、詞のバリエーションが初期とは違う方向でてきているのが面白いところです。