風が吹けば

桶屋が儲かる話。 または私はいかに心配するのをやめて再びブログに足をつっこむことになったか。

ユニコーンが再結成するかも、というスクープを知ったのは昨年の暮れだった。スッパ抜いたのは東スポ東スポだけに、その時点では半信半疑といったところだったが、日を措かずしてJTBがコンサートツアー募集のページをフライングでUPしていたことが判明し、事実は確定的になった。ユニコーンが再結成。それはびっくりだな、と私は素直に思った。なんとなく、すでに16年経って、たとえばBOOWYブルーハーツのように「再結成があり得ないバンド」の仲間入りをしているような気がしていたからだ。私が高校生だった頃毎月買っていたPATI-PATIという雑誌には、チェッカーズ米米クラブユニコーンが毎月欠かさず載っていた。カセットテープに録音した音源を、それぞれのファンの子と交換したりしたものだ。でも決して熱心なファンではなかった。どちらかというと解散後、すばらしい日々という曲をきっかけに聴きだした奥田民生のソロワークスのほうが私には肌に馴染んだ。

 

年末のCDJ WESTで、トリのエレカシが終わった後会場を出ると、晴れ着姿の5人がプリントされた看板をしょったサンドウィッチマンが「ユニコーンが再結成しまーす!」と脳天気な声を出しながらメルマガの登録者を募集していた。勿論私も喜び勇んで携帯をかざし、ちゃりんという脳天気な音を聞いた。やってくれるなユニコーン、今年は楽しくなりそうだなあ、となんとなくうきうきした気持ちで新年を迎えた。

 

そこからの怒濤のメディアラッシュ、リリースラッシュは皆さんの記憶にも新しいだろうと思う。程なくしてチケットの申し込みのお知らせが登録されたアドレスに送られてきたが、その時点では私はまだ遠慮気味だった。せっかくの機会なので、どこか1カ所でも行きたい、けれど、ここは16年間を一日千秋の思いで待っていたファン(たとえば、ユ典のトットさんのような)が優先されるべきだろう、みたいな気持ちがどこかにあった。しかし、どんなメディアで見ていても、40過ぎたおっさんたちはどうかと思うほど楽しそうで、シングルリリースされたWAO!の初回版DVDでのおっさんたちもそれはそれは楽しそうで、やっぱりどこか1カ所ぐらい・・・という気持ちも捨てきれずにいた。しかしそうは言いながら、この3月で自分が異動になることはほぼ確定的であったので、チケットを取っても行けるかどうかわからない、というジレンマもあった。

 

今回のユニコーンの再結成が、数多ある再結成と違ったもっとも大きな点は、再結成の発表時点ですでにシングルとアルバムが完成し、ツアーまでもが組まれているということだろうと思う。JAPANの編集者である山崎さんや兵庫さん、渋谷さんでさえも、その事実を直前まで知らなかった。その水も漏らさぬ箝口令。ことに、私は12月のジョンレノンスーパーライブのあとで録音されたJ-WAVEの「民生鍋」において、今年の目標、としてその場に居合わせた吉井和哉が「バンド再結成します」と爆弾発言をし、「ホンマに!?」と驚いてツッこんであげるトータスに対して、「嘘です嘘。でもほら、解散してたらそういう風に使えますよってこと。今年こそ!今年こそ!とかいって(笑)」という、民生とトータスの前でそんな発言をするとは、2009年7月の今振り返ると卒倒するしかない、というような吉井”困ったちゃん”和哉に対して、しれっとこう受け流した民生の言葉が頭に残っていたので余計その民生の意志の徹底ぶりに感服したというのもある。「この番組で言うと、ホントになるからね」。

 

ちなみにトータスも吉井も、再結成発表後「内緒にされた!」と心外なご様子であったが、トータスはともかく、吉井には言わなくてよかったと思うよ、うん。 2月18日、ユニコーン16年ぶりのアルバム「シャンブル」発売。初回版にはシングルの初回版特典DVD「バンドやろうぜ」の続編DVDがついている。シングルの時のDVDがとても楽しかったので、音源を先に聴くか、DVDを先に見るか、一瞬ためらったのだけど、ここはやはり敬意を表して音源を聴くことに決めた。それが吉井の新しい音源でも、いつも同じなのだが、私は基本的に歌詞カードを見ながら聴く、ということをしない。できるだけ日常の些末な、アイロンがけとか、洗濯物を畳むとか、見るともなしに好きなサイトを見るとか、そういうことをやりながら聴くことにしている。ユニコーンのアルバムは作曲も歌い手も5人に別れるから、如実に個性が出て面白いなあと聴きながらぼんやり考えていた。ときどき、この曲は作曲誰なんだ?と確かめるために歌詞カードを見たりした。一足先にレビューを書いていたJAPANの兵庫さんがイチオシだったサラウンド、ああ確かに民生っぽい、民生の本音曲っぽい、なんてことも思った。

 

最後の曲は「HELLO」。 最後の曲が流れ出したとき、私はたぶんもうなにもすることがなくなって、ぼうっと画面をただ見ていたような気がする。歌詞カードは見ていなかった。それは確かだ。シンプルなのに、後半になるにつれ温度を上げていくタイプの曲。すきだなあ、と思った。これは私の好みだ。そう思いながら、もう一度曲が展開していく、そうして私はまったく突然といっていいほどに、この曲を聴きながら突っ伏して泣き出してしまったのだった。 のちに雑誌のインタビューで読んだのだが、この曲の作詞作曲者である阿部義晴は、このHELLOがすばらしい日々のアンサーソングなのではないかとか、ファンに対してのものではないかといわれることに対して、「みんないろいろ考えるね。でも、違います」とだけ答えている。特定の誰かを思って書いたのか、そうではないのか、それは今に至るまで彼は口にしていない。

 

私はどうしてあのとき、あんなに衝動的に涙してしまったんだろう。自分でもよくわからない。自分のことを思ったのか、自分と自分がなくしたもののことを思ったのか、喪ってしまった誰かのことを思ったのか、そのどれもなのか、そのどれでもないのか。ともかく、「そう君が泣いていた あの頃にもう一度会いたくて まだ君が元気だった あの頃に言いたくて」と、その後に続く力強いリフレインは、あの瞬間、私の心を揺さぶった。たとえば、再結成ということばにまとわりつくネガティブなイメージ、なんで今頃、どうせ金、売れてないメンバーの救済じゃない?かっこわるい、あちゃー、再結成なんてろくなもんじゃない、そういった言葉にまとわりつくものを、この曲は軽々と飛び越えて、CDプレイヤーの向こうから私の胸にまっすぐに突き刺さったのだった。突き刺さり、そして今も揺さぶり続けているのだ。

 

この曲を、絶対にライブで聴きたい。その瞬間から、それまであった私の遠慮も逡巡も、どこかに消えていってしまった。そして私の、ユニコーンライブへのチケット争奪戦の日々が始まる。 さて、風が吹けば桶屋が儲かる話はまだようやく三味線あたりに到達といったところです。回りくどい?確かに。でもそれがこの諺の醍醐味ですから。というわけで、続きは次回。