エレファントカシマシ新春公演@日本武道館 レポート

2009年4月以来の武道館、「エレカシ」「新春」「武道館」の3つの単語が揃うのは実に10年ぶりとのこと。年の最後も武道館、年の初めも武道館、どんだけ武道館が好きなんですかあたしゃ。

しかし、私は猛反省した!ほんと、なめてた!去年の渋公とかその前のZEPPとかの新春公演からいってまあ2時間半ぐらいでおわるだろう、ということはその日のうちに新幹線に乗って帰ってこれるんじゃないかと思っていた、んですが、甘かったよ!(笑)

なんとなく、ストリングスは入るだろうなあというのは予感があったんですけど、オープニングでドビュッシーの「月の光」が流れてきて、あれっなんかこの雰囲気、ストリングスが入ってまるでメカラじゃんアハハハ、と思ったところにこれですよ、蔦谷さんのピアノで「月光」がかぶさってくるとかどうなんですかコレ。冗談抜きで椅子からずり落ちそうになったわ。

光の旋律を切り裂くように鳴らされるドラムのリズムと入ってくるギターのリフ。1フレーズ弾いてはやめて、また1フレーズ、もうみんな何の曲だかわかってる、そこに宮本が駆け込んできて雄叫び一発、後ろの幕が開いて総勢14名のストリングスチームが一斉に「奴隷天国」のリフを奏でる、どうですかこのオープニング!いつもSEすらなしに舞台に登場することが多いエレカシが、ここまで世界観を演出してくるというのがまず意外だし、初っぱなから「奴隷天国」という選曲もだし、それをストリングスとやってしまうというアレンジもだし、いやまさに度肝を抜かれました。そして何回聞いても宮本の「おめえだよ そこの」はしびれるかっこよさ!

セットリストは新譜の「悪魔のささやき」が中心(なんと全曲やった)なので、構成としたら新譜発のツアーっぽくなりそうなもんなのだが、この初っぱなの奴隷天国の鮮烈さのなせる技なのか、それとも「新春」「武道館」という場のなせる技なのか、1回かぎりの、スペシャルなライブだという空気が漂っていた気がします。

久しぶりに披露された(気がする)「翳りゆく部屋」や、「久しぶりに聴いて自分で感動してしまった」という「赤い薔薇」、宮本のアコギ一本で聞かせる「夜の道」のような、宮本の持つ叙情性が際立つ楽曲があるかと思えば、「みんな最高です、…なんちゃって」と言い放って始まった「珍奇男」や「脱コミュニケーション」での突き放される感覚、「ハナウタ」や「幸せよ、この指にとまれ」で歌われるアンセム、ほんとにエレカシのライブは振り幅が大きいよなあと思ったし、それは宮本浩次というひとの心の襞でもあるんだろうなあと思いました。

しかし、私は「月夜の散歩」もそうなんだけど、「夜の道」のような、ある種他愛ない楽曲を淡々と歌う宮本の声が好きすぎる。あの天鵞絨のような声、なんなんだろう。武道館が身じろぎひとつせず宮本の声に聴き入っているようだったし、私は南西の2階で、後ろから数えた方が早い!というような場所から見ていたんですけど、ほんとうに目の前で歌ってもらっているような感覚に陥りました。

しかし、「幸せよ、この指にとまれ」「ハナウタ」の時点で宮本は相当全力を出し尽くした、という感じがあったのに、そこでふたたびストリングスが登場してからさらに7曲をぶっ続けで聴かせてくれたのだった。一昨年の武道館でも圧巻だったストリングスとの「シャララ」は今回も絶品だったし、「笑顔の未来へ」も個人的にはちょっと久しぶりな感じがして嬉しかった。宮本は高音がつらくなる場面は何度もあったが、それでも歌っている間は信じられないようなパワーにあふれていて、でも曲間は文字通り足が覚束なくなるくらいになっていても、一向にライブが終わる気配がない。「いっぱい練習して、たくさん曲を用意してきました!」と宮本は何度も言ったけれど、その言葉通りこれはちょっとすごいことになっているのではないのか、時間わからないけど、っていうか私は新幹線に間に合うのか、ってことがここで初めて頭を過ぎりました(笑)

春の武道館でもストリングスと見事なアレンジで聴かせてくれた「桜の花、舞いあがる道を」。本来ならこれで終わってもいいぐらいの大団円感、しかしそうはいかない。メンバーが明らかにステージに残っているのに暗転し、そして「朝」のSEと同じ、スズメの鳴き声が聞こえ、それはだんだんと大きくなり、そしてだんだんと歪んでいく。モニタに月食の映像が現れて始まったのはもちろん「悪魔メフィスト」。

セットリストをみるとこの時点で23曲目、普通ならアンコールのラストになってもいいぐらいの曲数です。しかし、さっきまで桜の花とか幸せとかそんなことを歌っていたひとと同一人物なのかこれは、と思うほど、この「悪魔メフィスト」の宮本は狂気じみていた。音源には到底現れない狂気がこの曲にはあったし、歌っているのか、喋っているのか、唸っているのか、そのどれでもあり、どれでもないような宮本の声が武道館を覆い尽くしていて、私はもうただ茫然と立ち尽くすのみ、といった感じでした。

私は、舞台の上に立つ人をみるとき、どうしてもそこに「異形の者」を見に行くという感覚が抜きがたくあるのだとおもう。等身大なんて言葉とは真逆の、絶対に手の届かない存在、私たちとは異なる存在を見たい、見せてくれと思う気持ちが。この日「悪魔メフィスト」を歌う宮本はまさに異形の者だった。この破壊的な衝動を、今年結成30周年を迎えようとしているバンドが鳴らしているということにひたすら震えました。

もうこの時点で相当にしてやられていたのですが、これで終わるエレカシじゃない。アンコールの1曲目はふたたびストリングスと「平成理想主義」、続いて「40歳ぐらいのときに作った曲」と言って「シグナル」。うれしかったなー!何度聴いても名曲だ(そして「シグナル」のPVはマジ傑作中の傑作)。「どのみち俺は道半ばに命燃やし尽くす その日まで咲き続ける花となれ」。すばらしい。

ソーメニーはZEPPでたくさんやったから、とかなんとか呟きつつ、「できるだけおめでたい曲をいっぱいやりたい」ということで「四月の風」!「契約が切れたときに作った曲で、ってまあまた切られるかもしれないけどね」なんてことをさらっと言いつつ。しかしこれだって、ほんとにへたしたら私が一番苦手とする「ありきたりな歌詞」に陥りそうなもんなのに(だって「明日もがんばろう 愛する人に捧げよう」だよ)、まったくそのありきたりさから遠いところで成立してるところがすごい。

おめでたい曲を、の言葉があったからかもしれないけど、なんとなく俺明日かなーと思ったらその通りで、ってことはこれがラストか、いやどうだろうなんとなくこれでは終わらない気がする、なんてことも頭の中にありつつ、しかし宮本はもうほんとに全力を出し切っていて、途中で持っていたギターを弾くのをやめてそのまま外して床に倒してしまった(投げたっていうんじゃなくて、ただもう手を離したって感じですね)ほどだった。でもやっぱりこれで終わらない!ここで宮本の言った言葉

「こうなったら体力勝負だ!」

はい!宮本先生についていきます!

そしてこの大団円的流れをまたもひっくり返すガストロンジャー、こんなふらふらでよくまあこのパフォーマンスができるもんだよ!そして続いてファイティングマン、あーもうやけだ、こうなりゃやけだ、新幹線の最終なんか知るもんか!

いったんメンバーがはけたものの客電は点灯しない。そうですよね、いちばん「めでたい曲」やってませんものね、と開き直りつつアンコール。最後はもちろん「待つ男」です!なんてったって、富士に太陽ちゃんとある!宮本が「いい一年がやってくるぜ!」と言ってくれて、そうだそうに決まってる、いい一年がやってくるに決まってる!と、初詣も行っていない私にやっと新年が訪れたような、どこかが更新されたような気持ちになることができました。

いやしかし、通路側の席で出口にもっとも近い南西ブロックで、という利がなかったら、ほんとに最終の新幹線に乗り遅れてたと思いますヨ私…(あとあんだけ武道館行ってたおかげで動きに無駄がなかった)。しかしこういうてんこもりのライブを見せてくれちゃうから野音や新春はどーしてもまた見たくなってしまうよね。4月からはエレカシにしてはほんとに破格と言っていい本数のツアーが予定されていて、しかもそのほとんどがライブハウスという、えーマジチケット無理なんじゃんこれ、っていうか私個人としては吉井とスピッツのツアーががっつりかぶってるところにもってきてこれですからもう今ちょっと思考停止状態です。でもがんばるるるん。きっといい一年がやってくるぜ!